スタティック・セキュリティ
(写真提供:r.shinomiya)
スタティック競技の場合、通常は競技時間を選手にボディタッチで告げる副審役と兼任になります。また副審役とサブのセキュリティが選手の両サイドに位置する事もあります。また選手には選手個人のパートナーが隣につく事が許されているので(選手に小声でささやく事は出来ますが、触れてはいけません)、3人が選手の周辺に位置する場合もあります。
副審役は、選手の挙動に常に目を配らせる必要があります。これは競技が始まる前から始まります。もしその選手が顔見知りで、ある程度性格なども把握している場合は、普段の言動や行動との違いに注目しましょう。
口数が普段より少ない、あるいは多い、落ち着きが無い、などはいわゆる「ストレスの兆候」です。選手がリラックスして競技に臨める様、できるだけ気を配ってあげて下さい。
競技が始まったら、選手の体の動きに注目します。始めのうちは静止状態(そのほうが酸素消費が少ない)がほとんどですが、徐々に苦しさの兆候が見え始めます。
苦しさの兆候がどのように現れるかは個人差がありますが、主なものとして
・筋肉が小さくケイレンし始める(主に肩の周辺)
・肩を上下にゆすり始める
・口または鼻から息をはき始める
といったものがあります。これらは選手自身が意識的に行なっているものもあれば、無意識で体が勝手に行なっているものもあります。自分の意志とは関係無く、これらの兆候が現れたら、肉体的なリミットが近付いている証拠だと思って下さい。
また選手によっては苦しくなってきたところで、気を紛らわせる為にわざと動く(足踏みをする等)というやり方をする選手もいますが、かえって酸素消費が多くなりますので、あまりお勧めはできません。ルールでは、選手の申告時間の1分前からボディタッチを開始し、申告時間までは30秒毎、申告時間を過ぎたら15秒毎の確認を行なう、という事になっています。
(例)
申告時間4分30秒の場合
ボディタッチは3分30秒、4分、4分30秒、4分45秒、5分、、、(以降15秒毎)
よってセキュリティはこの時間を確認しつつ、選手の挙動にも注目しなければいけません。
(競技会によってはタイムキーパーを配置し、ボディタッチの時間を管理するようなシフトをとる場合もあります)
セキュリティがボディタッチをしたら、選手は何らかの合図を返さなければいけません。この合図は意識がはっきりあるよ、という確認サインですので、当然ながらハッキリとしたサインを返さなければいけません。これがあいまいなサインであったり、わかりにくかったりすると、その時点でLMC(Loss of Motor Control=意識混濁、通称サンバ)を取られ、失格となってしまう可能性もあります。
前述の苦しさの兆候が大きくなってきた場合、LMC、あるいはBO(ブラックアウト=意識不明)の恐れがあります。苦しさの兆候が大きくなってきた、というのは、例えば肩、腕、わき腹などのケイレンが大きくなってきた場合、あるいは空気の泡を「ボコッ」と大きく吐き出した場合などです。またボディタッチに対する反応が無い、あるいは小さい場合はLMCの可能性があります。
もし意識が既に無かったとしても、ボディタッチに体が反応する場合がまれにあります。その場合は苦しさの兆候の有無と合わせ、可能なら選手の目線を確認して下さい。いわゆる「目が泳いでいる」状態であればLMCに陥っている可能性があります。
選手が危険な兆候に陥っている、と判断した場合は、即座に選手を水面へ引き上げます。競技会の場合、ここで引き上げるかどうかの判断が、実は非常に微妙です。つい選手側の気持ちに立ってしまい、判断が遅れがちになりますが、ここは冷静な判断でジャッジして下さい。ちなみに競技会では、セキュリティは審判団の一員と見なされ、競技を中断させる権限を持ちます。
LMCの場合、水面上に引き上げて深呼吸をさせてやれば、大抵の場合はすぐに回復します。水面に上がって意識があったとしても、もうろうとした状態ですので、転ばない様、傍に立つなどのサポートしてあげて下さい。回復せず、ケイレンや荒い呼吸がおさまらない場合は、酸素吸入が有効です。
もし水面にあがっても意識が無い、激しいケイレンがおさまらない、というBOの状態の場合は、気道を確保しつつ水面に上げ、速やかに酸素吸入を行なって下さい。また舌を噛んでしまう恐れもあるため、アゴをもって口を開けさせる事も、場合によっては必要です。また迅速に水面に上げる事は必要ですが、あわてて頭をプールサイドなどに打ちつけてしまわない様注意して下さい。
また選手が自分の意志で競技を終了し、水面に顔を上げたとしてもまだ安心はできません。LMC寸前の場合、水面に顔を上げ、大きく息をしたその一息でLMCに陥る場合があります。競技が終了した直後も選手の挙動、表情などに注目して下さい。現在のルールでは、選手が水面から顔を上げてから20秒間は主審はその挙動を注視し、20秒たって始めて競技終了、となります。一流の選手は、自分のリミットを常に見極めているため、非常にスマートに競技を終了させます。経験の浅い選手は自分の限界点の見極めが難しい事に加え、練習と競技会の雰囲気の違いから、精神状態がフラットでなくなり、ベストのパフォーマンスができないということが少なくありません。
繰り返しになりますが、LMCの兆候は非常に微妙です。そのためオフィシャルのジャッジは過去のLMCやBOのビデオなどを見て、その境界線について研究を重ねています。また国際大会の傾向では、LMCと判断される基準は厳しくなっている方向です。
(text by h.sugawa)
注意
このテキストは2003年3月現在のAIDA国際ルール及びAIDA JAPAN競技規則に基づいて書かれています。
ご意見・ご感想はこちらまで
|
|