さらに深みを目指す方へ・大深度での新たなリスク
フリーダイビング競技では、これまでもブラックアウトやLMC、あるいは鼓膜破損などのリスクが隣り合わせでありましたが、昨今の世界的なレベルアップから、これらの事以外のリスクについても選手からの実体験としての報告が多く上がっています。
これからさらに記録を伸ばしていこうと考えている選手の皆さんは、十分留意して下さい。
※「大深度」とはどれくらいからか、という定義はありませんが、ここではだいたいー50m以上を想定しています。
■減圧症
窒素が体内に溶け込む事が原因で起こる減圧症は、従来はスクーバダイバーに起こるもので、スキンダイバーに起こる事は希である、と思われがちですが、発症例は少ないものの存在します。フリーダイバーの場合、これと酸欠などが併発する可能性がありますので、要注意です。
アプネアアカデミーでは、潜水時間の2倍以上の水面休息時間を奨励しているようです。つまり1分間の潜水であれば、最低でも2分のインターバルはあけるべき、ということですね。実際には余裕を持ってもう少し間を空けた方がいいでしょう。
■窒素酔い
これもスクーバダイバーのものと思われがちですが、存在するようです。症状としてはスクーバの場合と同じく、思考力の低下、視界が狭くなる、躁あるいは鬱状態などがあげられます。(個人差はありますし、同じ人でも体調などによって差は出ます)
フリーダイバーの場合、窒素酔いが起こっても時間的には短いものですが、それにより違うトラブルを誘発しないとも限りません。少しでも自覚症状が出たら無理をしない事です。
■酸素中毒
フリーダイバーが酸素中毒?と思われる方もいるかもしれませんが、理屈上は起こっても不思議はありません。
フリーダイバーは息を止めているので、潜降中に新たな酸素を取り込む事はありませんが、大深度の場合は酸素分圧が上がる分、酸素中毒には近づきます。
また、潜降前に純酸素や高酸素濃度のガスを呼吸すると、血中酸素濃度が上がって潜水時間自体は長くする事ができますが、酸素中毒のリスクは急速に高まります。公式な競技などで上記のような行為をすれば当然失格ですが、練習などでもリスクが高くなる為、あまりお勧めはできません。■ブラッドシフト
大深度では生命維持のため、末端の血液が身体の中央部に集まるブラッドシフトと呼ばれる現象が起こる場合があります。
ブラッドシフトが起こった場合、末端である手足の血液は通常の状態より少なくなるので、その分いつものように動かない、ということになります。
フリーダイバーに直接影響のあることとしては、フィンキックが思うように出来ない、という事も考えられます。
ブラッドシフトは誰にでも起こる現象ではありませんが、起こった時の事も考え、ギリギリのダイブは避けるべきです。
■ラングスクイーズ
横隔膜、胸郭の柔軟性が十分でないと、肺に対する圧力が不均一となり、損傷することになります。これをラングスクイーズといい、症状としては血痰がでます。トップアスリートの多くが経験しているようです。もしラングスクイーズが起こった場合は、その日のダイビングは中止し、出血が止まらない様であれば医師の診断が必要でしょう。女子選手より男子選手の方が多く経験しているようです。
■プラズマフィリング
大深度では肺が水圧で潰されるのを防ぐため、肺胞から血漿が浸透します。それにより、小さくなった肺の中が血漿の液体で満たされる事になります。浮上と共にこの液体は逆に血液中に戻っていきますが、若干は残ります。このため、唾に黄色い液体が混ざる現象が起きます。
プラズマフィリングは、ラングスクイーズに比べれば特に大きな問題はないようです。
■ディープ・ブラックアウト
よくいわれるブラックアウトのほとんどは水面近くのいわゆる「シャローウォーターブラックアウト」ですが、ボトム深度でのブラックアウトも可能性としては起こり得ます。特に大深度の場合はこれまで挙げたような様々なリスクと併発することになります。シャローウォーターBOの場合、水面がすぐ近くですから、周囲にセイフティダイバーがいれば、とにかく水面に引き上げて対処を開始すれば、多くの場合は事無きを得ます。しかしディープBOの場合は、水面に引き上げるまでが非常に遠いこと、またスクーバダイバーがそこにいたとしても、サーフェイスセイフティの様にホールドして一緒に浮上する事は事実上出来ない事などから、リスクは更に増します。
大深度でのトレーニングを行なう場合は、必ずチームで行動し、万一の場合の対処手順は十分に話し合っておくべきでしょう。
大深度での様々なリスクを書いてきましたが、今後更に別の現象なども報告されるかもしれません。大深度を目指す選手の方は、自分のチームと共に十分に安全に気を使ってトレーニングを行なって下さい。
SAFE DIVE!!
( text by h.sugawa )
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