人形の夜

written by 鈴猫




 ふふふ、くすくすくす…母親似の金の髪を持つ娘は、兄弟で決めた 「遊び」の人形を考案中にひらめいた事に、満足し笑みをうかべた。
 そこは、闇と光の狭間の様な空間…黎明たる光の中で少女は笑う。


☆★☆



「はあ、魔竜王ガ−ブ様が、シャブラニグドゥ様に造反ですか…
 わかりました」
 部下の、獣神官ゼロスは、獣王の前に跪き、指令を聞く。
あいわらず、微笑んで、変わらぬ表情…。


「つまらないようね?」
「いいえ?そんなことありませんよ」


 二つに分ける筈の力を、その身一つに持った目の前の魔族は、獣王 の大抵の望みを、完璧にこなしていた。魔族の中で、シャブラニグ ドゥとその四人の腹心を除けば、多分ゼロスに叶う魔族はいない。
 それは、同時に、対局にある神の下僕達にも、比類する力がない ということ…。実際、降魔戦争の折には、いく人かいた冥王の神官 などは、滅んでしまっている。ゼロスは生き残った。その力の絶大 さは、竜族をほぼ全滅に追い込んでいる。指を一つ動かすだけで…。


「昔はたのしそうだったのにねえ…」
 笑いながら、竜を滅ぼした魔物…。


「若かったですからね」
 千年など、魔族にとって瞬き一つに過ぎない…とはいっても、実際 ゼロスにとって、「手ごわい」と思った相手は殆どいなかった。
魔族にとっての糧といわれる、殺す喜び、滅ぼす喜び、憎悪される 快感…それすらも、絶対的な力を持ちすぎると、退屈になってしま うのだ、力が拮抗してこその楽しみというのが、ゼロスにはなかった のだから…。


「魔竜王ガ−ブなら、文句はないでしょう?」
 獣王は艶然と微笑む。
「人間と混ざったとはいえ、魔竜王様ですからね」
 やれやれと、魔物は腰を上げる。おまけに、今回は冥王様の計画 じゃないですかと、皮肉な調子で口の端をあげる。


「あの子がどうしてもやりたいのですって…」
「獣王様は?」
「私はそんなことに興味はないわ」 行きなさいと、獣王は腕をふる。
「では」
一礼して、消えようとする魔物に、獣王は制止をかけた。
「これをあげるわ、好きになさい」
血の色をした、貴石がそれぞれタリスマンになっていた…。


☆★☆



 主の気まぐれは、いつもの事だ…強大な魔力は、退屈な時間を 作りだす、絶対な力はつまらない…。
しかし、ゼロスは出会う…今まで見下して…いや、意識すらする 必要のなかった生き物達の中で出会う。


「そのタリスマン、あたしに売って!」
赤毛の娘が笑う。
この生き物はなんだろう?強大な魔物は立ち止まって首を傾げる。


 赤毛の娘と、その周辺の人間…今まで、魔族を見れば怯えるだけ だった生き物の中に隠された、謎と不思議の力…運命さえも覆す 魔力とも異なる何かを見つけてゼロスは嬉しくなる…。


「決まった未来なんてない」 そうだろうか?
「やれるだけの事はやる」
そうなのか?
「ところで、あんたの目的は何?」
「それは…」
ゼロスは、ていよくごまかそうとして、あることに気がついた。
「秘密です」
にっこり微笑む。
 いままでの、微笑みとは違う。でも、そんな事、目の前の娘達は 知らないから、いきり立って怒っている。
魔物は「楽しく」なった。


☆★☆



「いやあ、お久しぶりです、皆さん」


 魔物は嬉しくなった、魔竜王の残党狩りのその情報からすれば、 またあの面白い不思議な人間たちに会えるのだ。


「フィリア?」


 ゴ−ルデンドラゴンの巫女の娘…つまらない、つまらないこの竜…
しかし、きっとこの娘も変わる。この人間たちを知れば、「面白く」 なるにちがいないと、ゼロスは思った。


 絶対は、本当につまらない…もう少しこの人間たちと遊んでみよう


「どうしてゼロスさん、そんな事だまってたんですか?」
ドラゴン禁制の町を抜けたところで、一行の一人の娘に聞かれた。


「だって…そのほうが「面白い」じゃないですか」
 自分は、違う道をとおるべきだと進言した、理由を問われたら 言ったかもしれないが、あの竜の娘はそうしなかっただけなのだ。


 ゼロスは笑う。主が、たった一つだけ彼に授けなかった能力を、 彼自身の遊びに転換して、楽しんでいた。


☆★☆



 金の髪をした獣王は、黎明の空間でくすくすと笑う。
 本来は、自分に虚偽の報告をさせない為でもあったのだが、魔力を 編み上げて生み出した唯一無二の魔物は、存外巧くできていた。


 この世界を滅ぼすもの、それは取り合えずゼロスに任せるのが 妥当だろうと、獣王は考えた…そう、そして「世界を救う」のは 神の側の生き物がすればいいのだ。それよりも、あの生き物達は 面白い、彼女の生み出した魔物…ゼロスが、彼らと過ごし、どう 世界を変えるか、とても興味深い…母親の生み出した世界で遊ぶ …そのルールを破ったのは、冥王と魔竜王…一人は滅ぼそうとし、 一人はその地位すら否定した…まだ時間はある…強大な彼女の 嘘をつくことが出来ない魔物が、不思議な生き物と、世界で遊ぶ のを眺める時間は、十分あるのだ。


☆★☆



「リナさん、本当にわかってるんですか?あれは魔族なんですよ?」
フィリアが、ゼロスの居ないときにリナに話かけた。
 リナと一行は、アルメイスが狙う物を探す旅に出た。
丁度、ゼロスが「じゃあ僕は用事があるので」と消えた後、 フィリアが口を開いたのだった。
「わかってるわよフィリア、あんたより、あたしのほうが、
 アイツとのつきあい長いのよ」
 魔竜王を滅ぼすために、彼女を利用した魔族、微笑んだその後ろの顔は 魔法を使うものだけが知る、いや、強大な魔法を操る事を学んだ者だけが 知りうる者かもしれない。


「まあ、御前はわかってるんだろうけどな」
ゼルガディスがため息をつく。


「そうね、もしあたしたちが「あんたついてこないで」っていったって
 ゼロスがきくわけじゃないわ、あたし達にゼロスがついてくるって
 事は、あたし達の行動がゼロスの行動に重なってるもしくは、
 利用しやすい行動になってるってことよ」
「え〜じゃあ、こうしてるのもゼロスさんの思い通りなんですか?」
「そうでもないんじゃないか?だってリナが大飯食うのなんてゼロスが
 考えることでもないだろう?」
 アメリアの不安そうな言葉に、のんびりとガウリイが答えた。
「うっ!まあ、ガウリイの言うことにはずれはないわね」
なんて表現するのよと、リナはガウリイを叩いた。
「まあ、あたしの感からいうと、「まだ」ゼロスは敵じゃないわ
 それだけのことよ」
「リナさんって、たくましいんですね」
 フィリアに、ど〜ゆう意味よ!と突っ込みをいれながらリナは ゼロスの気配を感じた。


☆★☆



「ゼロス、どうしたの?」
金の髪の主が、よそを向いているゼロスに声をかけた。


「いいえ、別になんでもありません」
 ゼロスは笑って答える。絶対の主の為に作られた魔物…。


 主が望むのなら、自分は躊躇なく、あの赤い髪の不思議な人間と その一行を消してしまうだろう…ただ、まだ望まれないから…
人の眠る夜にだけ動きだす人形達のように、まだ自分は彼等と 「楽しむ」ことができる…強大な力を持つ嘘のつけない魔物は うっすらと自分の為に微笑んで、美しい主に報告を始めた…。

END


HTML EDIT BY αえん

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