涙
written by 小松のぶろー
“涙”がなくて良かった。もし“涙”があれば、僕はきっと、それを流していただろうから。
こんな気持ちのままでは、精神世界面(アストラルサイド)に帰れない。
実体のないあの世界では、僕の気持ちが全てになる。
この“悲しみ”が全てになる。
ゼラス様に心配をかけてしまう…。
こんな気持ちのままでは…。
僕が悲しくなるのは…。赤ん坊が“生きる為”に激しく産声を上げている時。
“生きる為”に――…
例え、それが100年程度であっても…。
―――僕は?“滅びの為”に生まれて…
今も生きている。
望んでいるのは、完全なる秩序。憎んでいるのは、世の中の不合理。
―――魔族が短命だったなら、全てがうまく行くのに…
老人が、家族に看取られながら、安らかな顔で死んでいく。
僕は生きている。今も生きている。
僕の心が泣いている。
おわり。