無題

written by 水無月 ミオ



魔竜王ガーヴが遠征に出ている間、その部下である幼少のヴァルガーヴの世話はゼ
ロスがする事になった。
 「なんで僕がこんな事をしなくてはいけないんでしょうか。本来ならガーヴ様の部
下の方がするはずなのに……。」
 そうぼくきながらも、ゼロスは幼いヴァルをあやすのだった。
 「ねえ、じぇろしゅ。遊ぼう。」
 「あのですね、僕の名前は『じぇろしゅ』ではなく『ゼロス』です。」
 「………じぇろしゅ……?」
 「だーかーらー。」
 とは言うものの、あどけない顔で見つめられていては流石のゼロスも怒る気にはな
れなかった。
 「まあ、子供の言う事ですし仕方ありませんね。」
 そう自分に言い聞かせ、ヴァルの世話を続けていた。

 「じぇろしゅ。ガーヴしゃまは?」
 「ガーヴ様は、用事で出かけていますよ。」
 ガーヴがいないと知ると、ヴァルの大きな瞳からは涙が溢れてきた。
 そして・・・。
 「ガーヴしゃまーーーーー!!」
 ヴァルは大声で泣き出してしまった。
 「そんな、泣かれては困りますよ。」
 どうしたら良いのか分からないゼロスではあったが、とにかくヴァルを泣き止ませ
ようとした。
 すると突然、後ろからもの凄い殺気を感じゼロスが振り向くと、そこには遠征中の
ガーヴがいた。
 「ガ、ガーヴ様……。遠征に行かれたはずでは………?」
 「虫の知らせってやつだな。何か不吉なものを感じて戻って来てみたんだが。」
 思いっ切りゼロスを睨み付けるガーヴ。
 「おいゼロス。俺の可愛いヴァルを泣かせるとは、どういうつもりだ。」
 「いえ、別に泣かせるつもりは無かったんですよ。只、ガーヴ様がいないって知っ
た途端、泣き出してしまって………。」
 それまで泣いていたヴァルであったが、ガーヴの姿を見つけると辿々しい足取りで
ガーヴに駆け寄ってきた。
 ガーヴがヴァルを抱き上げると、ヴァルは泣くのをすぐに止め、涙で濡れたままの
顔で笑い始めた。
 この時、ゼロスは何故ガーヴの部下がヴァルの世話をしなかったのか、その理由が
分かった気がした。

おわり


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