魔竜王(ガーヴ)のゆううつ
written by 加流ネメシス
一、少年に、自分の姿を想い重ね…
「ここまで来ちまえば、大丈夫だろう…」
言ってオレは、口唇を笑みの形にゆがめた。
ここから一番近くにある、町の入口の林に瞬間移動で出現した。
「よっし!! 誰にも見られてないな。」
オレは辺りの気配を読み取ると、なにくわぬ顔で林を抜け出し、旅の賞金稼ぎを装って町に入る。
――!?
町に入った途端、いくつもの視線を向けられていることに気付く。
中には視線をこちらに向けながら、ヒソヒソ話をしているヤツもいる。
――何なんだ!? 一体!!
別にオレに恨みを持っているよーな感じでもなし。
賞金首や指名手配者を見ている訳でもなし…
お〜〜〜〜〜〜しっ!!
こうなったら、ヒマ潰しの賞金首探しも兼ねて、情報屋にでも行けば、この視線の原因も分かるかも知んねー。
どうってことはない、小さな町だが、情報屋くらいはあるだろう…
情報屋とは読んで字の如く、どっかの湖に棲んでいる八ッ首の蛇竜(サーペント)を倒すと、腹から魔剣がでてくる、そんな根拠もねぇーウワサ話だの、どこそこには野盗が出るから気を付けましょーだの、賞金首の情報だの、ありとあらゆる情報がそこには集まっている。
何のヒネリもオリジナリティーもない名だが、変にヒネリを加えて訳分かんなくなるよりはマシだが…
自分の聞きたい情報をリストから見つけ出し、詳しい話を情報に見合った分の金額を払って、情報屋から聞き出すってぇ寸法だ。
もちろん、情報屋との料金交渉は忘れない。
視線の嵐をかいくぐりながら、しばらく歩くと、情報屋の看板が目に入った。
オレはドアに手を伸ばし――――――
「ガーヴ・フレイド・オン・フレイヤーじゃろ?」
丁度、情報屋のドアに手を掛けようとしたその時オレは、その声に呼び止められた。
オレはちょくちょく、ラルタークとラーシャートの目を盗んでは、人間共の世界をフラついて、賞金稼ぎのよーなマネをしている。
第一、考えても見ろ!!
薄暗い本拠地の奥深く、年がら年じゅうラーシャートの状況報告だの、ラルタークの説教なんぞ聞いているだけの、不健康極まりない生活の何が楽しい!?
言うまでもなく、オレはンなモンに大切な青春時代を費やすつもりはサラサラねぇーーー。
訳あって、あまり目立ったことは出来ないが、あの、リナ=インバース程ではないにしろ、これでも結構名は知れていたりするのだ。
ま、テキトーに言っちまった名前だけどな。
リナ=インバースのウワサのどこまでが本当なのかは知らんが、オレが本当の力を出せば、ヤツのウワサを軽く超える自信はある。
なぜなら、オレは――――
魔竜王ガーヴだからだ!!
「あ゛〜〜〜〜? 何だよ!? じーさん」
オレは振り向きざまにそう言った。
「わしは、ディオルって言うんじゃが、魔竜王ガーヴ本人ではないかとウワサが出る程の、お前さんの才能を見込んで、わしの研究に力を貸してもらいたくっての。
どうじゃ?
わしの所まで来てくれんかの?
無論、それなりの報酬は出すつもりじゃが…」
一方的にまくし立てるじーさん。
「オレの才能を見込んでってぇーのは分かるが、研究って何だよ?」
と、ありありと疑いの目差しを向けて言うオレの問いに、
「誰かに研究を盗まれたんでは困るんでな、ここではハッキリとは言えんが、究極の研究とだけ言って置こうかの。」
小声でささやくように答えるじーさん。
「ところでよぉ、じーさん、この町の連中、オレに何かあんのか?
入った途端に、妙な視線をいくつも感じたんだけどよ。
じーさんがオレの所に来たのも、町の連中の変化を知って、オレがここにいるのが分かったからだろ?」
オレの問いに対して、じーさんは意味あり気な笑みを浮かべて答える。
「この町だけではないぞい…
お前さんなら、それも無理はなかろう…
まっ、そのことは、わしの研究を手伝えば、じきに分かろうて。
もっひょっひょっひょっひょっひょっひょっひょっ…」
このじーさん、一体どんな風にすれば、そんな笑い方ができるんだ?
オレは、じーさんの依頼を受けることにした。
じーさんをシメ上げて吐かせるのは簡単だが、究極の研究とやらに、少し興味がない訳でもなかった。
面白半分とゆーか、興味本位とゆーか、とにかくオレとしては、ヒマが潰せればいいのだから、たまにはこーゆーのもいいだろう…
町から少し離れた森に、その洞窟はぽっかり口を開けていた。
「明り」(ライティング)をほのかに灯した、洞窟の中をただじーさんの後ろについて歩く。
「なぁ、じーさんよ。
そろそろ教えてくれても、いーんじゃねーのか?
その究極の研究ってヤツをよ。」
いい加減、ただついて行くのにも飽きて、オレは言う。
「まあ、そんなに慌てなくてもいいじゃろうに。
短気は損気と言うじゃろうが。
ところで、お前さん、なかなか男前じゃのぅ。」
オレは胸をそらし、ドン!!と誇らし気に叩いて。
「当然!! オレの闘っている姿を見りゃーホレねぇー女はいねぇーー!!」
がっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっ!!」
あぁ、愉快! 愉快!!
そんなことをしているうちに、命の水で満された巨大なガラスケースが並んだ広間に出た。
薄暗い中、ガラスケースの輪郭だけが不気味に輝く。
ガラスケースを横目に見ながら、更に奥へと進む。
―――!?
オレは数多くあるガラスケースの一つに目を止めた。
そこには、淡い青い髪の少年がたゆたっていた。
何かの戦乱に巻き込まれたのだろう、体じゅうのあちこちに傷を負っている。
傷の感じからして、まだ新しい…
どうやら、負傷して倒れている所をじーさんにつかまっちまったらしい。
「何をしておるんじゃ!?」
じーさんのその声に、オレは我に返った。
オレがあの少年に気を取られているうちに、じーさんはかなり先を行っていた。
「あ…あぁ!! 何でもねぇー」
オレは慌てて、じーさんに駆け寄る。
広間の奥の机の前に着いたのは、それから間もなくだった。
じーさんは、オレの方に向きなおって。
「長旅で疲れているじゃろ?
風呂でも入って待っててくれんかの?」
と、いきなりそんなことを言い出しやがった。
「あ…あぁ…」
あまりにも突拍子もないセリフに、思わずマヌケな返事を返すオレ。
それに、表向きには旅の賞金稼ぎと言うことになってっし、ここで断わるのも何だし、じーさんのその申し出を受けた。
風呂はちょっとした地底湖を、そのまま温泉にしたような作りだった。
そー言えば、一週間くらい前にも露天風呂に入ったな…
オレは無造作に服を脱ぎ捨て、髪をほどく。
髪がバラけ、髪のサラリとした感触がオレの背中からふくらはぎまで伝わる。
つま先をほんの少し湯に入れ、温度を確かめる。
丁度いいかな。
ちゃぽん…
オレは湯に入ると、背を岩にもたれかけ、何とはなしに天井を見上げて、さっきのあの広間の少年を想い浮かべた。
じーさんが気付いているかどうかは知らんが、おそらくあの少年はエンシェントドラゴン…古代竜の一種だ。
「似ているのかもな…」
オレは目を細めて、ポツリと呟く。
赤眼の魔王(ルビー・アイ)や冥王(ヘルマスター)が、人間の魂と一部同化しているオレをしばき倒した後、面白半分で実験台にでもしちまうかも知れん。
特にあの冥王のインケン野郎ならやりかねねぇー。
もしかしたら、あの少年は未来のオレの姿かも知れんのだ。
次回予告
リナにしばき倒され、牢屋にいるハズのディオルがなぜ!?
究極の研究とは、やっぱり…
そして、謎の少年の正体は?(笑)
「情けなや あんな罠にかかるとは」
お楽しみに!!