進め! インバース探偵団(後編)
written ブラントン
あらすじ
アンドレフという商人の護衛として、フォレス・シティにやってきたあたしは、さっそく犯人捜しを開始。
でも、ぜんぜん手掛かりはつかめないわ、弟子になりたい、だなんて勝手に追っかけてきた、レイルって子供は出てくるわ……
……はっきりいって、先行き不安……
「で、なんでこんなとこまで来たわけ?」
結局あれから、あたしの必死の抗議にもかかわらず、レイルくんはあたしの弟ということにされてしまった。
……まあ……ちょっぴし家を壊しちゃったから、こっちとしても抗議の声が上げにくかった――ってのもあるんだけど。
「やだなぁ。
もちろん、リナさんに修行をさせてもらうため、に決まってるじゃないですか」
ちなみに、あたしとレイルくんは、同じ部屋に泊まることになった。
向こういわく、姉弟なんだから、だそうである。
「あ、そう。
ま、どーせあのあと、そんな金払えない、って親から追い出されてきたんだと思うけどね」
「……う、そのとおりです……
って、だいたいあれはリナさんが……」
「はいはい。ったくンなこと、気にしない、気にしない」
「気にします!」
あいかわらずゆーずーというもののきかないやつである。
――ふっ、やはり子供だな。
「ま、しばらくはここにいるのね。
君にはやってほしいこともあるし」
「え!?
もしかして修行させてくれるんですか、お師匠さま!」
……やっぱホントに、こっちの方もあきらめてなかったのね……
「だから、なんでそこでいきなり呼びかたが変わんのよ!
そんなんじゃなくって――」
「おつかれさまー、でどうだった?」
翌日の夕方、一足先に待ち合わせの場所である街の料亭にて、軽い食事をしていたあたしは、レイルくんと再会した。
「……疲れました……」
「ンもう、そうじゃないって。
なんかいい情報はあったか、って聞いてんのよ」
「リナさん……やってほしいことってこの聞き込みのことですか……?」
「――もちろんじゃない。
おいてあげてるんだから、これぐらいは当然のことだと思ってくれなきゃ」
「……自分なんか、人に任せて遊び回ってばっかだったくせに……」
「てへっ(はぁと)
だって、聞き込みってはっきりいって、かったるいし、つまんないし、めんどくさいし、あきるし、疲れるし、そのくせたいした情報ないんだもん」
「……ずいぶん言いたい放題ですね……」
「まあねー(はぁと)
で、情報」
「はいはい。
まずアンドレフさんですけど、家は代々の商人で、両親は二人とも十年以上前に病気で亡くなっていて、その後事業を立ち挙げたのが六年前――」
……く、くわしい……
「……ねえ……そんな情報、いったいどこで手に入れたの?」
話が一通り終わったとき、あたしは尋ねた。
するとレイルくんはさも当たり前な顔で、
「こんなの酒飲ませて酔わせちゃえば、ポンポンしゃべってくれますよ。
――まずとりあえず酒を一本おごって、口が軽くなったところをうまくおだてて聞き出せば、あとは酔いつぶらせていなくなっちゃえばいいんです。
そうすれば、ボク子供だし、おごった分も合わせて、お金はぜんぶ向こうが払ってくれることになりますから」
……こいつ……もしかしたら将来とんでもないやつになるかも……
あたしはその瞬間、つくづくそう感じた。
――ま、あたしも今度から参考にしようっと。
「――ところでリナさん、この張り紙って何なんですか?」
そう言ってレイルくんは、壁にはってあった紙を指さした。
「ン? なにそれ」
そう言われて、あたしが見たものには、次のように書かれていた。
『次のような姿をした者を見たら、至急アンドレフの屋敷まで。
・背が高く髪は短い。
・体格は普通の男。
・声は低く、顔は鋭い目をしてヒゲを生やしている。
・太い足とは見かけによらず、動きは非常にすばやい。
なお、どんな些細な情報でも、持ち込んだ者には報酬を与える』
「これ他の店にもはってありましたよ」
「ああ、これは昨日あたしに、『この事件に関わるな』とか言った、暗殺者(アサッシン)のことよ。
ゼリエルはすぐ手配させるって言ってたけど……さすがに早いわね」
あたしはもう一度その張り紙を見た。
「……にしても、自分で見たんだから、こんなくわしく書かないで、絵でも描いた方がわかりやすいのにね……」
「絵がヘタなんじゃないですか? そのゼリエルって人」
なるほど。
納得してあたしは食事を再開した。
……ところで、『動きはすばやい』って、人前でどーどーとそんなことする奴がいるのだろーか……?
さて――すでにそれから一週間が過ぎようとしていた。
ちなみに事件の発生は――いっさいなし。
あたしとしても、いいかげんなんか起こってほしいと思っていたその矢先――
あたしはフレックスさんから、アンドレフさんの出張の話を聞いた。
――なんでも、どーしても行かなきゃなんない用事ができたらしい。
そのことを知れば、敵としても今がチャンスと、いーかげん何か仕掛けてくるだろう――
というわけで、明日はその翌日の出張に備え、打ち合わせをしておきたい、ってことだった。
――そんなことがあった、その日の夕方のあたしたちの部屋。
「リナさん、ボク明日から、ちょっと家に帰ろうかな、って思ってるんですけど……」
レイルくんは、一人考え事をしていたあたしに、そう言ってきた。
「リナさん、聞いてるんですか?」
「聞いてるわよ。
うーん、どうやって黒幕のしっぽをつかもうかしらね……」
「えっ!?
ってことはリナさん、誰が犯人なのか見当ついてるんですか?」
「まあ、ね」
じつのところいうと、あたしは自分の見てきたことや、レイルくんの集めた情報を元に、もしかしたらあの人が黒幕かもしれない――と思っていた。
「ねえねえ、誰なんですか犯人?」
「犯人じゃなくて黒幕よ。誰の指示で奴らは動いているか、ってこと。
それに確証があるわけじゃないわ。
だからどうやって証拠をつかもうか、って考えてるのよ」
「それで、誰なんですか?」
レイルくんは、しつこくあたしにせまってくる。
「教えてあげない」
「えー、教えてくださいよ!」
……だって……はずしたらカッコ悪いんだもん。
「大人の世界には、知らないほうがいいこともあるのよ」
「……自分だってまだ子供なのに……」
なかなかきびしーとこをついてくるやつである。
――っと、いいこと思いついちゃった(はぁと)
「――ねえ、レイルくん。そんなに言うんなら、教えてあげてもいいわ。
ただし、条件つきで」
「本当ですか!?」
「レイルくん、明日から家に帰るんでしょ?」
「はい、もうほとぼりもさめたかなって思って」
「じゃあちょうどいいわ。じつはね……」
ごにょごにょ。
「えーっ! そんなの無理ですよ!」
案の定ものすごく驚くレイルくん。
「お願い、キミにしかできないのよ」
「……でも……」
「やってくれるんなら、黒幕の正体教えてあげるから」
「……うーん……」
よしっ、しゃーないここは一発切り札使うか!
「じゃあ、事件が無事解決したら、弟子入りを認めてあげるから」
「ホントですか!?
やります! やらせていただきます!」
「そう! ありがとね(はぁと)
レイルくん」
――もちろん、これはあとでなんとかごまかして逃げるに決まってるけど。
「で、誰なんですか黒幕っていうのは」
「たぶんなんだけどね……」
あたしは彼に自分の考えを話した。
「これでいいでしょ。じゃ、ちゃんとやってね」
「わかりました!」
元気良く返事をするレイルくん。
……でもホントに大丈夫かな……?
――翌日。
あたしとアンドレフさんとフレックスさんは、三人で書斎に閉じこもった。
もちろんドア付近には厳重な警備をしている。
ちなみにゼリエルは、今日は大事な用があるから、ということでこの場にはいない。
まあ、彼が留守中の屋敷の管理にあたって、アンドレフさんには同行しないので、情報はなるべく漏らさないほうがいい、という判断もおそらくは入っているのだろう。
「今回通る道は、次の中から選ぶということになりますが……」
かくして始まった打ち合わせは、向こうへ行く手段、向こうでの宿泊先などを簡単に決め、最大の注意点である、通り道についての話に移動していた。
ちなみにあたしはここにいるとはいえ、地元の人じゃないので、どれがいいのかなんて全然わからないから、口を出す機会はない。
だから話はもっぱら、アンドレフさんとフレックスさんの間で行われ、あたしはただそれを聞いてる、というモンだった。
――話によると、じつはこのフォレス・シティから、今回の出張先である隣町へと行くルートは、たくさんあるそうなのだ。
ちゃんと整備された街道に、普通の道、はたまた地元の人しか知らないような裏道など。
しかし今回は馬を利用するため、全然舗装もされてない裏道は却下。
「おそらくはここを通るのがよいかと……」
「……そうだな……よし、そうするか」
――そして、それもまとまりかけようとしたとき。
「誰!?」
あたしは窓の外に一人の暗殺者(アサッシン)の姿を認めた。
「外に誰かいるわ!」
あたしはドアを開け、屋敷中に届くように叫ぶ。
その声に気付いたか、あわててきびすを返す暗殺者(アサッシン)。
「侵入者が現れたらしいぞ!」
「捕まえろ! 逃がすな!」
さらに家のガードについていた者たちが、あわただしく動き始める。
「あたしも行くわ!」
それを追ってあたしも外に出ようとする――が。
「お待ちください、リナさま」
それはフレックスさんの言葉にさえぎられた。
「これはあるいは、敵の陽動作戦かもしれませんぞ。
おとりをわざと発見させ、そちらをつかまえようとして、守りが手薄になっている間に、もう片方が襲撃をしかける。
そうなれば、敵の作戦も成功しやすいですからな」
その言葉にアンドレフさんも賛同する。
「フレックスの言うとおりだ。
すでに他の者が追っているし、ここでお前までいなくなるのはまずい」
「……わかったわ」
――しかし、それからの襲撃はまったくなく、その代わりにあったのは、
「……逃げられました」
という報告だけだった。
――ふたたびアンドレフさんの書斎。
「どういたしましょうか……
やはり我々の話が聞かれていたとなると、予定を変更するしか……」
あたしたちは暗殺者(アサッシン)の登場にともなって、新たに協議をするはめになっていた。
むろん内容は、予定を変更するか否かでである。
「ちょっと待って。
一つ聞きたいんだけど、あそこからここの話し声って聞こえるの?」
「ああ。
ここは窓のすぐ前だし、おそらく聞こえているだろう」
あたしの問いに、席に着いたままのアンドレフさんが答える。
「わかったわ。
ンで、あたしとしては道を変える必要はないと思うんだけど」
「ほほう、それは興味深い意見ですな?」
「――いい。
向こうは、確かにあなたたちの話の内容を知っているけど、その話を聞かれていたことに、あたしたちが気づいていることも知ってるのよ。
それなら向こうは当然、こっちは通る道を変えてくると思うでしょ」
「つまり裏をかく……ということか」
「そう。
まさかこっちが予定通りの道を通るとは、思わないはず」
するとアンドレフさんは納得したか、
「……なるほど。
しかしさすがだな、フレックスが目をつけただけのことはある」
「そりゃあ『戦いのセンスと駆け引きについては天下一品で、向かってくる者を敵味方構わず、強力無比な攻撃呪文でなぎ倒す』人ですから。
ねー、フレックスさん」
「ええ、そうでございますね」
あたしの皮肉は、フレックスさんにいともあっさりと返された。
……ったく気づけよな……
……それともとぼけられただけだったりして……?
その翌日、あたしたち三人は屋敷を出発した。
三人だけしかいないのは、大人数だと敵に見つかる恐れがあるからである。
まああたしにしてみれば、十人程度の普通の暗殺者相手なら、一人でもなんとかなるのだが、なにせ今回は守らなきゃならない人が二人もいるため、けっこう苦しい。
――そんなこんなであたしは歩いて、他の二人は馬に乗って目的地へと向かっていた。
馬に乗っているとはいっても、フレックスさんがいるため、速度は徒歩のものとほとんど変わらない。
だから、あたしたちが街を抜けて森の中へと入ったときは、すでに太陽は頭の上へと近づきつつあった。
……さて……いつ来るかしらね……それとも来ないとか……?
森に入ってから少しして、あたしがそう考えていたそのとき――
がさがさっ。
来た!?
音のする方へと目をやったあたしが見たものは――
七、八人の黒装束に身を包んだ暗殺者の姿だった。
「おい、話がちがうじゃないか!
ここには奴らは来ない、と言っただろう!」
怒ってあたしにあたるアンドレフさん。
しかし、あたしは表情を変えることなく、
「いーえ、ぜんぶ予定通りよ。
……そうでしょ?
フレックスさん」
「は?
なにを言っておられるのか、よくわかりませんが……」
フレックスさんは突然振られて驚いているが――
「とぼけるのも、いいかげんにしたほうがいいんじゃない。
あたしは、あんたが今回の事件の首謀者だ、って言ってるのよ」
「なんだと!?」
当然のことながら、驚きの声を上げるアンドレフさん。
「あなたを怪しいと思ったのは、最初にあたしがアンドレフさんに会ったときだったわ――」
そんなことは無視してあたしは話し始める。
「あなたはアンドレフさんに、あたしのことを『向かってくる者を敵味方構わず、強力無比な攻撃呪文でなぎ倒す』って紹介したわよね?
考えてみればおかしいのよ。
仮にも、これから自分の主人を守ってもらう人でしょ?
そんな役を、自分がそんなふうに思った人に依頼するなんて、普通しないはず。
しかもあなたは、これは自分の率直な感想だって言ってた。
その気になればわざわざ優勝者を雇わなくてもよかったのに、あえてそんな感想を持ったあたしを選んだ――
つまりあなたは、本気でアンドレフさんを守ってもらおうとは、思っていなかった。
すなわち、あなたこそが黒幕なのよ。
まったく――とんでもないじーさんだとは思ってたけど、まさか裏でこんなことを企んでたとはね……」
「な、なるほど――
しかし……それだけで犯人だと決めつけるのは、おかしくないか?」
「だいじょうぶ、証拠もあるわ」
「……まさかそんな……」
そこでフレックスさんは初めて言葉を発した。
「『そんなことあるはずがない』とでも言うつもり?
甘いわ。
今ここにこいつらが来ていることが――あなたが犯人であるという、まぎれもない証拠になっているのよ。
――そりゃあ、たしかにあんな言葉だけで、黒幕だと決めつけてちゃ、ぜんぜん説得力もないし、あたし自身確信を持てなかったわ。
だから一つ罠をはることにしたのよ」
「罠?」
「昨日あなたたちの話を盗み聞きしてたの、あれじつは暗殺者でもなんでもなくって、あたしが頼んでレイルくんにやってもらってただけなの。
――まあ、逃げる途中で捕まっちゃったら、ぜんぶパーだったけど、そこはあの子のすばやさを信頼してね。
あたしもさりげなく、捕まらないようにジャマしようか、と思ってたんだけど、それはあんたに止められちゃったし。
あれも、もしそいつが自分の部下だったら困るから、止めたんでしょ?」
あたしの質問にも、フレックスさんは答えずに無言のままだった。
そして、それにおかまいなく、あたしの話は続く。
「とにかく、盗み聞きなんかされてなかったってわけ、こいつらには。
つまり、誰かが情報を漏らさない限り、暗殺者たちがこうして現れるはずないわ。
そしてその情報を漏らした人物――つまり今回の事件の首謀者がフレックスさん、あなたなのよ!」
あたしの指がびしっ! とフレックスさんを指さした。
「……くっくっくっ……
――みごとだなリナ=インバース。
たしかに我々は、その老人に雇われているのだ」
と、ここまで沈黙を保っていた暗殺者(アサッシン)側の一人が、喋り始めた。
「しかし、お前は重大なことを一つ忘れている。
今この話を聞いているのは、我々とその老人とアンドレフのみ。
つまり――今ここでお前とアンドレフを殺してしまえば、真相は永久に闇の中ということだ」
あたしは、その声を発した者のほうへと向き直り、
「――そりゃあ、たしかにその通りね。
でも、そんなことがはたしてできるかしら?」
「ふっ。
手を引け、と自ら忠告してやったというのに、聞き入れなかったことを後悔させてやる」
……あれ? ってことは……
「あんたこの前の暗殺者(アサッシン)?」
「――気づいていなかったのか」
初めて男の声が、少しすっとんきょうなものになった。
「だってこの前は顔覆ってたから、全然素顔がわかんなかったんだもん」
「予想以上にいい男だったか?」
「ええ、調子いい男だったわ」
向こうの言葉に、あたしも皮肉で返す。
「――余裕だな」
「――そっちもね」
「では――行くぞっ!」
男はそう言うとともに、あたしに向かって来た!
よし、まずは一発――
「氷の矢(フリーズ・アロー)!」
あたしの声に現れる、数本の氷の矢。
むろんこれが当たるなどとは、さらさら思っていない。
――だが、そのまま突っ込んでくることは不可能。
となれば左右によけるか、ジャンプでかわすか。
いずれにしろ、その間にあたしは第二撃の準備をできる。
――さて、どうくる……?
ぐさっ。
――なるほどぐさっ、って――
……え?
あたしの氷の矢を体に受けて、その場に崩れる男。
……あ、あたったの今の呪文……
そして男は苦汁の表情を浮かべ、
「……くっ……きさま……強いな……」
「……あ、あのねえ……
あんたが弱すぎんのよ!
なんだったのよ、さっきまでのよゆーしゃくしゃくの態度は!」
……もしかしてこいつって、単に逃げ足が速いだけとか……?
「ふっ、暗殺者(アサッシン)たるもの、いくら相手が強いと感じても、決してそれを表に出してはならない。
暗殺者(アサッシン)道を極めに極めた私にとって、それぐらいは当然のこと」
「そんなもん極める前にまず自分の実力を上げんかい!」
……いるんだわ。こーゆー頭にだけ詰め込んで、実際なにもできないやつ。
だが、その男はまだ顔に笑みを浮かべ――
「しかしあまい、あまいぞリナ=インバース。
暗殺者(アサッシン)心得その四!
暗殺者(アサッシン)は目的を達するためには、たとえ自分の身であっても、犠牲にしなければならない!」
「……えっ!?」
――まさかこいつはおとり!?
「うわぁぁぁぁっ!」
それと同時に後ろで聞こえる叫び声!
振り向けば、今にもアンドレフさんに切りかかろうとする暗殺者(アサッシン)の姿が!
ヤバい、まにあわない!
――が。
「風牙斬(ブラム・ファング)!」
次に見たのは、横から飛んできた光球を受けふっとぶ暗殺者(アサッシン)の姿だった。
「ほーほっほっほ! そんなザコに気を取られるとは、まだまだねリナ!」
そしてその高笑いとともに、森の中から現れたのは――だれであろう、金魚のうんち、白蛇(サーペント)のナーガ!
「ナーガ!?
なんであんたがこんなとこに!?」
ところがさらに驚いたことに――
「リナさん!」
「レイルくん!?」
そう、その隣にはレイルくんの姿もあったのだ。
「冷波吠(ハウル・フリーズ)!」
ナーガは、ふたたびアンドレフさんに襲いかかろうとした別の奴を、呪文でかたづける。
「とりあえず話は後! まず、こいつらはかたづけるのが先よ!」
「わかったわ!」
あたしは残りの暗殺者(アサッシン)がいる方へと、向き直った。
「――さてと」
残りの奴らをぜんぶ倒した後、あたしはふたたびナーガのほうに向き直った。
「ンで? なんであんたがレイルくんといっしょにいるのよ」
その質問に、待ってましたとばかり胸を張るナーガ。
「ふっ、知れたこと!
あんたに合流しようと、森を歩いていたわたしの目に飛び込んだ、見るからに怪しい洞窟!
さては悪人どもがはびこっているのか、と乗り込んでみれば、はたしてそこにいたのは、捕らえられた一人の少年と、数人の見るからにあやしい男たち!
そして悪党を成敗してその子をみごと助け出し、リナのことを聞いてここに駆けつけた、というわけよ!」
「つまり――森を歩いてたら路銀が尽きたから、とりあえず適当に何かのアジトを襲ったら、たまたまそこにレイルくんが捕まってた、と――」
「……そんなあっさりと言わないでよ……」
あたしの厳しいツッコミに、調子を狂わせるナーガ。
ところがそこに助け舟が入った。
「そうですよ!
奴らに捕まって、なすすべなしのボクを、ナーガさんはたった一人で助けにきてくれたんです!
……ああ、かっこよかったなあ……呪文を唱えて奴らを次々と打ちのめす、ナーガさんのその姿!」
……ちょっとちょっと、レイルくん……
「ところで――いったい誰に捕まってたわけ?」
あたしは、質問の相手をレイルくんに変えた。
「こいつらの仲間です。
それが――どうやらボクのことを、仲間と勘違いしたみたいで――」
――なるほど。
確かにレイルくんは暗殺者(アサッシン)の姿をしていたのだから、ハタから見てまちがえられても、おかしくはない。
……まあ多少、いやかなり背の高さに問題があったとは思うが。
「それで洞窟の中に連れられて、そこでちがうってわかったら、いきなりしばりつけていろいろ聞かれて――
その――リナさんがフレックスさんを疑ってて、証拠をつかむために罠を張ったことだとか――その内容が、道を変えると見せかけて、じつは予定通り、この街道を通る、ってことだとか」
「ちょっと待って!?
なんであんたが、この道通ること知ってんのよ!」
「――なに言ってるんですか。
盗み聞きしろ、って言ったのはリナさんでしょ。
苦労したんですよー、なかなか聞こえなくって」
「――ンなの、ホントに聞けだなんて、誰も言ってないわよ!
……そーすると……ちょっと待って。
レイルくんがそのことを話しちゃってるってことは、奴らはそれから情報を得たってことだから……奴らがここにいることが、フレックスさんが情報を漏らしているってことにはならない……ってことは――!?」
「フレックスは犯人ではない、ということだな」
がぁがぁぁぁん!
……は、はずした……?
あたしは最初にやっつけた、あの口だけの暗殺者(アサッシン)に駆け寄った。
「ちょっと、目ぇ覚ましなさい!
あんたフレックスさんに雇われてる、って言ったでしょうが!
どーゆーことなのか説明してよ!」
そして首をつかんで上下に振る。
「そうさせたのは、リナさんじゃないですか?」
またしてものレイルくんの突っ込みだが、今回は無視。
「あんなのにあたった、こいつが悪いのよ!
こら、さっさと起きなさい!」
……ん?
そこであたしは、手をはたと止めて、ジッと短い髪にヒゲを生やしたその男の顔を見た。
……まてよ……考えてみればあれって……
ざっ。
あたしは男から手を離し、きびすを返して歩き出した。
「ちょ、ちょっとリナ! どこ行くのよ!」
「わかったのよ、今回の事件の真の黒幕がね。
――戻るわよ、屋敷へ。
話はそこでするわ」
あたしたちは、そのものすごく弱い男を連れ、アンドレフさんの屋敷に戻ってきた。
あたしは手に一枚の紙を持って。
「おっと、どうしたんだいったい?
出張はとりやめか?」
――ゼリエルは書斎にいた。
「まったく――あんたには完全にはめられたわ」
彼の言葉を無視し、あたしは話し始める。
「昨日、偶然レイルくんを捕まえた部下から、あたしが仕掛けた罠のことを知ったあんたは、逆にそれを利用しようともくろんだ。
そして部下に、あたしたちの前で、あたかもフレックスさんの部下であるように演技するよう指示して、罪を着せる。
そうすれば、暗殺が成功すればもともと文句なし。
そしてもし失敗したとしても、黒幕はフレックスさんということになり、自分に疑いはかからない。
そうやって二重の保険をかけ、自分は屋敷でのうのうとしてる。
そうじゃないの、ゼリエル」
「ちょっとまて。とういうことはまさか……」
「そう、今回の事件の真の黒幕――
それはゼリエル、あんたよ」
『……なっ……!?』
驚愕の声が、辺りに響き渡る。
「――ふっ」
だが、ゼリエルは落ち着いた声で、あたしに言葉を返した。
「なにかと思えばなんだい、オレが黒幕だって?
そう言うからには、納得のいく説明をしてもらおうじゃねえか。
だいたい動機はなんだ?
言っておくが、オレは親父の財産なんかに興味はないぜ」
「そうですリナさん。
ボクの調べでも、この人がお金に困っているなんて話は、まったくありませんでしたよ」
レイルくんが話の裏づけをする。
「困ってるわけじゃないわ。これから必要なのよ。
おそらくは、自分の旅のための資金を」
――そこでゼリエルの顔が険しくなった。
「あんた、前々から言ってたそうじゃない。
『自分は商人なんかにはならない、世界中の宝を探す旅に出るんだ』って。
でも、今この家から出ようとしても、おそらくアンドレフさんは許してくれない。
けどむりやり出たら、後先いろいろ不便になるかもしれない。
それならちゃんと認めてもらってから、旅に出たい――
ここでもあんたは、二重の保険をかけたのよ。
まず暗殺者(アサッシン)を雇い、アンドレフさんの暗殺計画を実行させる。
そして、自らはそれに対抗するための警備のリーダーにつき、真剣にそれに取り組む。
そうすれば、もし暗殺が成功すれば、自分が跡継ぎになるんだから、自由にできるようになる。
またもし失敗したとしても、それはつまり、自分がアンドレフさんを守り切るってことだから、その恩を盾に、旅に出る援助を得よう――
つまり、どう転んでも、あんたにとって、うまくいくようになってたのよ」
ゼリエルは、じっと黙ってあたしの話を聞いている。
「ところがそこに、あたしがやってきた。
そうなると、もし暗殺があたしの活躍によって失敗した場合、アンドレフさんは、自分の実力を認めてはくれなくなる。
そこであんたは、部下の一人にとりあえず警告をかけさせ、依頼から降りるようにしむけた――
どう、ちがうかしら?」
「で、証拠は?
それじゃあまだ説得力がたりねえな」
「証拠は、これよ」
あたしは、手に持っていた手配書を前に突き出した。
そして捕まえていた男を指さすと――
「これは、あんたが命令して手配させたものよね。
これにはこの男の特徴が、いろいろと書いてあるわ。
『背が高く』、背は高い。
『髪は短い』、髪も短い。
『体格は普通の男で』、体格も普通。
『声は低く』、しゃべればわかるけど、声も低いわ。
『顔は鋭い目をして』、目は鋭いし、
『ヒゲを生やしていて』、ヒゲも生やしてる。
『その太い足とは見かけによらず動きは非常にすばやい』、太い足をしてるし、たしかに動きはすばやかった――」
「なんだよ、ぜんぶ合ってるじゃねえか」
周りは全員、あたしたちのやりとりを見ている。
「だからこそおかしいのよ。
ンじゃあ、今度はこいつに、あたしたちと会ったときの格好をさせるわ」
あたしは男の顔に布を巻き、顔の下半分を隠した。
「じゃ、もっかいいくわよ。
『背が高く』、背は高い。
『髪は短い』、髪も短い。
『体格は普通の男で』、体格も普通。
『声は低く』、もちろん声も低いまま。
『顔は鋭い目をして』、鋭い目。
『ヒゲを生やしていて』……ヒゲを生やしている……?」
「――!?」
ゼリエルの表情が変わった。
「――気がついたみたいね。
そう、残念だけど――顔の下の部分を布で覆い隠してちゃ、ヒゲが生えてるかどうかなんて、絶対にわからないわ。
そうだったわよね? 執事さん」
あたしは、同じく部屋の中にいた執事に確認をとった。
「……ええ、たしかに……」
ふたたびあたしは向き直ると――
「それじゃあ、なぜあんたはこんなことを張り紙に書いたのか。
ちなみに、カンであるだろうと思ったから、ってのは通用しないわよ。
不確実な情報を人探しの紙に載せるなんてこと、もしそれがまちがってたことも考えて、絶対にありえないし。
そう、あんたは知ってたのよ。こいつがヒゲを生やしてるってことを。
じゃあなぜ、その暗殺者(アサッシン)の顔をあんたが知ってたのか。
答えはただ一つ、あんたが暗殺者(アサッシン)側の人間でもあるからよ。
もしただの知り合いなら、今までずっと黙ってるはずないものね」
あたしは、そう話をしめくくった。
「――くっ!」
とつじょ、ゼリエルは立ち上がると、ドアの方へと突っ込んでいった。
「どけえ!」
逃げる気かっ――って……!?
「ちょっと、待ちなさい!」
――だってそっちにいるのは――
「ふっ!
爆裂陣(メガ・ブランド)!」
どがぐわっしょん!
――その瞬間――アンドレフ邸は二つ目の部屋を失った。
「ほーっほっほっほっ! この私に刃を向けるとは、いい度胸ね!
あんたには、それ相応の報いを与えさせてもらったわ!」
「だからって、無関係な人にまで被害を与えてどーするぅぅっ!」
ごめっ!
あたしの飛び蹴りは、廃墟と化した書斎で、一人高笑いをしていたナーガに、みごとに決まったのだった。
――かくして、一つの事件は終わりを告げた。
ゼリエルを役人に突き出し、呪文で吹っ飛ばした部屋の修理代を差し引いた分の報酬をもらって、あたしはフォレス・シティをあとにしたのだった。
――めでたしめでたし――
「リナさん!」
――ではなかった。
……そーいえばこいつがまだ残ってたんだっけ……
あたしの背後には、声をかけたレイルくんと、その隣にナーガの姿。
「……レイルくん……やっぱあの弟子入りって話はなかったことに……」
あたしが言いにくそーに切り出すと、レイルくんはいともあっさりと、
「いいですよ」
……え?
「……いいの? 弟子入り」
「ええ。ボクはナーガ師匠についていくことに決めましたから」
そういって、ナーガの顔を見るレイルくん。
「――ふっ、そういうことよリナ。
あんたとちがってわたしは人間ができてるから、やっぱりわかる子にはわかるってことね! ほーほっほっほっ!」
隣でまいどのことながら、なぜかいばるナーガ。
……そんな子供にわかってもらっていばるか、ふつー……
「――では、リナさん。お世話になりました」
「じゃあね、リナ。
わたしはこの子と、しばらく修行の旅に出るわ」
そう言うとナーガは、レイルくんの肩に手を置き、
「――さあ、レイルくん! あれがわたしたちが目指す、正義の星よ!」
「はい、お師匠さま!」
……おーい、今は昼だぞー……
あたしの心の突っ込みも無視して、二人は勝手にもりあがりつつ、行ってしまった。
……ナーガのやつ、どうせとことん使い走らせるつもりね……
ま、なんだかんだいって、めんどうな荷物が片づいたことだし――こうなった以上、あたしのすべきことはただ一つ。
とりあえずレイルくんが、あのウォーレンのようにはならないことを祈りつつ――
合掌。(進め! インバース探偵団:おしまい)
あとがき
どうも、はじめまして。ブラントンというものです。
猫南蛮亭では、開店当時からしょっちゅう出入りしている、じつはベテランです。ただし、書き込みはしたことないんで、今回が初お目見え、ということになります。
この作品は、私の中では三作めになります。
じゃあ、最初の二つはどうしたんだ、というと、あまりに駄作なため、投稿する気にどうしてもなれませんでした。ちなみにぜんぶ『すぺしゃる』ネタです。短編ですから、どうしてもそうなっちゃいまして。(すみませんスタッフの皆様……)
でももしかしたら、二十万ヒット記念かなんかで、手直しして発表するかも知れません。このペースだとすぐ達成しそうですからね。
かくいう私ですが、じつは持っているのは、『でりしゃす』とコミックだけです。そのため小説も、図書館や友人から借りて調べ、四苦八苦しながら書いています。
現在は、本編を執筆中です。本編十巻と十一巻の間という設定で、長さもだいたい文庫一冊分ぐらいになる予定。でも、まだ二が終わったところまでしか書いてない……(笑)。これも次の記念イベントに間に合えば、投稿しようかと思っています。(だからマスター、次も絶対やってくださいね!)
こんな私ですが、これからも書き込みをすることはないでしょう。感想メールも受け付けません。ですが、ここにはいっつも見にきてるんで、もしなにか言いたいことがあれば、『混沌サロン』か『訪問者リスト』に書き込んでくだされば、謹んで拝見させていただきます。
ではスタッフの皆様、そしてマスター、これからもがんばってください。
そしてこの作品を読んでくださった方々へ――ありがとうございました。P.S 『ウォーレン※註』って、誰かわかりましたか?
わからない人は小説をチェックしましょう!
編集註:ウォーレン……「スレイヤーズすぺしゃる6 打倒! 勇者様『打倒! 勇者様』」参照
前のページへ戻る
10万イベントインデックスに戻る
猫南蛮亭のホームページに戻る