| それぞれの品種について、常染色体や性染色体の基本的なしくみは、コンテンツ「遺伝の話」で簡単に説明していますが、ここでは、もっと深く、かつ根本的な交配のテクニックについて私の考えを述べたいと思います。 ※記載される内容は、私の知識と経験に基づく自論であり、推測の域を超えないものであることをお断りしておきます。用語等は便宜的に使用している場合もあります。内容に関する意見や感想、また有益な情報などありましたらご一報ください。ただし、異論を唱える場合は、必ず論的根拠をご提示ください。 (1)血が濃くなる? オカメインコの繁殖に限らず、いろんな繁殖において近親交配がタブーとされるのは広く知られている話です。一般的には、近親交配を避けるために新しい血を入れると言う理由でアウトブリードが行われます。オカメインコに関しては、近親交配を行わないという点においてはほぼ私も同じ意見ですが、単純にアウトブリードをすれば大丈夫と思ってしまうことには大きな問題があります。そもそも「血が濃くなる」とはどういうことなのでしょうか? 単細胞生物など、いわゆる雌雄が存在しない生物の繁殖においては、もとの個体が分裂し全く同じコピーを生み出すことによって繁殖するものがいます。繁殖の形態としては極めてシンプルで解り易い方法です。コピーが生まれるということの最大の欠点は、元親の個体が何かしらの原因で重大な欠陥を含んでいた場合、当然その個体から生み出されるコピーも同じ欠陥を持って生まれてしまい、これを続ければやがてこの種は絶滅の危機に陥ってしまうということです。 これを防ぐために、生物が手に入れた繁殖形態の一つが、雌雄の交配によりお互いの遺伝情報を出し合うという形です。片方が欠陥を持っていたとしても、健全な個体と交配することにより欠陥のある遺伝を固定させないようにすることが出来るのです。自然界においては、弱い個体は繁殖に参加することができず、より強い個体同士が交配することによってその種の体質をより健全に保つことになります。 「血が濃くなる」とは、同系統で交配することにより遺伝情報が固定される状態であり、近親交配を続ければ濃くなり、止めれば薄くなるということとはニュアンスが明らかに違います。 (2)インブリードとアウトブリード インブリードと言うとマイナスのイメージが先行する場合もありますが、本来はプラスの効果を期待して行われる交配です。良く知られているのはサラブレットと言われる競走馬の交配だと思います。競走馬には、ヘイルトゥーリーズン系、ノーザンダンサー系、リボー系などのいくつかの系統が確立されていて、新しく誕生した子馬は、その父親の系統を名乗ることになります。つまり、競走馬の系統はその馬の父方の血統と言うことになります。 馬の性染色体遺伝の構成は人間と同じで、(X,X)が♀で、(X,Y)が♂になります。このうち、Y染色体の遺伝子は♂にしかないので、父親から息子へ、またその息子へと延々♂に遺伝していきます。ということは、♂の遺伝子は半分は浮動しないので、♂の方が♀よりも形質が安定しているので、そのため♂を基準にして系統を確立しているのだと思います。まあ、想像ですが・・・。 あるペアの交配において、片方の3世代先祖に素晴らしいスピードを持った種馬Sがいたとします。そしてこの形質をさらに高めるためにインブリードを行う場合、相手も同じようにこの種馬Sを祖先にもつ個体を選びます。例えば4世代先祖に種馬Sを持つものです。通常、1世代前同士というのは兄弟交配を意味していますが、このような近親交配にならないように、3〜5世代前のものを選ぶのが良いとされているようです。特に3×4(3世代前と4世代前に同じ親を持つ)交配は、奇跡の交配と言われ素晴らしい個体が出易いとされています。このように、先祖に優れた能力の同じ種親を持つもの同士を交配し、その能力をさらに高めようとするのがインブリードです。ところが、良い形質が強化される反面、悪い形質が強化されることも当然起るので、インブリードは両刃の剣と言えます。オカメインコの場合、系統図が確立されている個体群などほとんど存在しませんので、事実上計画的にインブリードを行うのは無理があります。 全ての生物の起源は元々は一つだとすると、広義では生物の繁殖はすべてインブリードと言えなくもありませんが、系統図に載らないぐらい遠縁同士の交配はアウトブリードということになります。平たく言えば血縁関係がほとんど無い者同士の交配です。インブリードのように悪い形質を強化する確率は低くなるので、一般的に安全な交配とされていますが大きな問題が隠されています。 「この子は少し弱いからアウトブリードをして体質を改善しよう」的な安易な交配が結構行われています。一見、効果的な交配にも見えますが、こういう交配では、マイナスの状況がゼロにもどるだけなのですが、弱い形質を内に含んだままになっています。ブリーディングの鉄則は「弱い個体は、繁殖に参加させない」ことなのです。安易なアウトブリードが繰り返されると、見た目は普通で弱い形質を隠し持った個体がたくさん流通することになります。そして、こういう個体同士が交配されると、この弱い形質が現れる可能性が高くなります。そして、また安易なアウトブリードが・・・・。インブリードにしてもアウトブリードにしても交配は適切かつ慎重に行わなければならないのです。 (3)赤目(ファロー、Rシルバー)の交配 この文章を執筆している時点において、私は赤目の繁殖を行っていないので正確なことは述べられないかもしれませんが、ファロー及びRシルバ−(レセッシブシルバー)の交配では、いわゆるホモ接合体同士の交配はタブーで、片方はヘテロ接合体(スプリット)を使って繁殖をするのがセオリーとされているようです。 私は国産グッピーのブリーダーをしていたので、グッピーにおけるブリーディングを少し述べたいと思います。グッピーの繁殖の特徴は何と言っても世代交代の早さで、成熟した♀は、およそ20〜30日周期で一度に30〜100匹前後の子を産みます。しかも、グッピーの場合、近親交配における悪影響はほとんどなく、交配のほとんどはインブリードで行われます。このような背景のため、非常に短期間でたくさんの交配結果を知ることが出来るとともに、雑種交配をしても直ぐに品種の固定が出来る為、物凄い数の品種や遺伝子が確認されています。 グッピーにもオカメインコと同じように、ぶどう目のルチノーと赤目が存在します。赤目の品種は、オカメインコやその他の生物と同様に、細い、弱い、繁殖し難いというのが通説として一般に浸透していますが、しっかりと育成、繁殖を行っているブリーダーであれば赤目でも何ら問題なく育成、繁殖ができることを認知しています。これは、より質の高い相手と交配することにより、その体質は改善できるということなのです。ところが、なかなか改善できない品種も存在しています。この場合、体質が弱い強いの問題ではなく、その遺伝子自体が弱くなるという遺伝情報を含んでいる可能性があり、改善は相当の難作業となります。 それで、オカメのファローという品種はどうなのか?ということですが、もしファローという遺伝子そのものが弱い等のマイナスの遺伝形質を含んでいる場合、ファロー同士で交配しようと、スプリットを使おうとあまり意味はありません。スプリットの状態はファローの性質を封印している状態ですから、そのままファローの遺伝子を消し去ってしまえば良い訳ですが、これをファローと交配すれば結局またその性質が現れるので、ファローを作出しようとする場合に、スプリットを使っても使わなくても結果は同じです。 実際に、ファローやRシルバーの赤目の遺伝子は問題があるのかと言うと、赤目でも素晴らしい個体は存在している訳で、赤目が弱いとされているのは、安易なアウトブリードと同様、スプリットを使えば大丈夫という安易な交配が繰り返された結果だと推測されます。交配相手をしっかりと見極め、体質改善に努めれば立派な赤目系統は作れるはずです。 (4)ニックスブリード インブリード、アウトブリードの他にニックスブリードというのがあります。血縁関係は取り合えず置いておいて、相性の良いもの同士で交配をして素質を高めようとする交配です。ごく簡単な理屈ですが、最も重要なブリーディングテクニックの一つと言えます。これも、競走馬のブリードで良く使われています。競走馬には、父方の血筋に着目した系統が存在していますが、その系統と系統の間に相性の良い、悪いが存在しているのです。その系統の特徴をより強めようとするインブリードとは違い、相性の良い系統同士で交配し、全体的に能力の底上げを狙うのが目的で、リスクがほとんどなく素質を上向きに修正できるため、かなり重宝されています。 国産グッピーにおいては、系統の定義はありませんが、飼育する上で系統の特色みたいなものは存在します。グッピーも、人間や馬と同様に、(X,X)が♀で(X,Y)が♂になるため、♂を基準とした系統は作れないことはないのですが、グッピーは本来近親交配で系統維持を行うため、個々の系統は無数に存在するためこれを定義することは困難です。繁殖個体の選別は、同胎の兄弟の中から選抜されます。一度に数十匹以上生まれますが、全く同じ個体は存在せず、その中から選別することで十分に間に合うため、多系統の導入は基本的には必要ないのです。その代わり、同胎の兄弟から選別するわけですから、その選別基準は非常に繊細で、難しい作業となります。しかし、これをやらないとその系統はあっという間に形質劣化を起こし、崩壊してしまうのです。 さて、オカメインコの場合ですが、まずニックスブリードは非常にやりにくいと言わざるを得ません。多くの鳥の性染色体の構成は、(Z,W)が♀で(Z,Z)が♂になります。Wには遺伝情報が乗っていないとされているので、3つのZ染色体が♂♀間を常に流動している状態になります。そのため、人間や馬の♂が持つほぼ固定されているY染色体と同じ働きをするものが無いのです。グッピーのように、近親交配を重ねて系統を作るわけにもいかず、競走馬のように特徴を持った系統の確立も難しいため、効果的なニックスブリードを行うのは至難の業です。 (5)注目すべき遺伝の性質 系統の確立が難しい場合、選別の基準はその時の個々の形質を見極めなければなりません。例えば、体格が細めの♂と立派な体格の♀を交配した時に、その子供達がみんな立派な体格になったとします。この場合、♀親の体格が子供達に遺伝したわけですが、♀の性染色体のZ遺伝子は♂の子にしか遺伝しないので、全ての子に伝わることは原則ありません。そうすると、このケースは♀親が体格が良くなるという遺伝情報を常染色体の優性遺伝として持っていたという仮説が立てられます。常染色体の優性遺伝は、これを含む個体を繁殖に使えば、常に50%の確立で伝えることが出来るので、これを把握して利用すれば一種の系統の特色として扱うことは可能です。 また、ある特定の形質を封印してしまう抑制遺伝子というのもあります。抑制遺伝子は、それ自体は何の特色も示さないけれども、ある特定の形質と競合した時にそれを封じ込めてしまう効果があります。例えば、体が弱くなるという遺伝があったとしても、これを封じ込める抑制遺伝子とセットにすることによって、このマイナスの形質を働かせないようにすることができます。こんな感じで、目に見えなくてもプラスに働く性質の遺伝情報をたくさん持っている個体は、必然的に頑強な性質になるので、こういう個体を積極的に交配に参加させることによって、より効果的な繁殖を行うことができます。 (6)繁殖個体の育成 繁殖に適した個体を入手すると考えた場合、ショップやプロブリーダーのところで繁殖用として販売されている個体を求める方法もありますが、この方法で優秀な繁殖個体が手に入ることは非常に稀です。なので、自家繁殖するか、雛の段階で迎えて育成していくのが最良の選択となります。 自家繁殖する場合、卵として産み落とされた時から意識していかなくてはなりません。オカメインコは一度にたくさんの卵を産むことも多々ありますが、一つのペアが自力で問題なく育成出来るのはせいぜい3個ぐらいで、それ以上の場合は何かしらの支援が必要になります。また、あまりに数が多い場合、未熟な卵等も出てきてしまうので、卵の段階である程度間引くことも必要です。健全な卵の出産数は個体によってかなり差が出てくるので、これを見極めて行わなければなりません。雛が成長し、一人餌に移行する時は、体重が著しく減少する場合もありますが、精神的にも落ち着きが出てくる生後3ヶ月ぐらいで100gぐらいになっていれば体力的にはまず問題ないと言えます。 次に、「荒」がいいのか、「手乗り」がいいのかという問題もよく議論されますが、私自身はこれと言って違いは感じていません。それぞれ長所と短所がありますので、それを把握して飼育環境を整えてあげれば何ら問題はありません。よく目が届くという点では手乗りの方が有利なので、手乗りの方が良個体が多いようには感じています。特に、室内飼育などの場合は手乗りの方が良いでしょう。 体力的に健全であることは重要ですが、私がそれと同じくらい重視しているのは、精神面での成長です。精神的な成長なくして健全な発育はあり得ません。オカメインコは神経質ではありませんが臆病な鳥ですから、精神的に安定していることはとても重要だと考えています。鳥にとって最初の劇的な変化は、飛べるようになることです。飛べない雛の時は、何かに怯えるように、隅っこに潜り込むか、体勢を低くし左右に振るしか出来ませんが、飛べるようになれば簡単に逃げることが出来るわけで、これは精神的に大きな変化をもたらすため、「飛ぶ」ということは非常に大事なのです。なので、より早い時期から十分な飛行空間を提供することが重要です。 私が思う精神的に良好な鳥の特徴は、@奇声などを発せず落ち着いていること。A活発に飛び回ること。B好奇心が旺盛であること。C人間をあまり怖がらないこと。などが挙げられます。 手乗りに見られる問題点として、人間に完全に依存してしまうことがあります。この場合、いつまでもお母さんの影から出てこれない子供と同じ状態なので、繁殖はほとんど望めませんし、他の鳥とのコミュニケーションもとれません。ただ、この問題は、早い時期から複数飼育をすることでほぼ解消できます。 もう一つ餌の問題ですが、良い個体はほとんど好き嫌いをしません。新しい餌を導入する時も真っ先に試しに来ます。天然飼料の中には、精神的にいろんな作用をする成分もたくさん含まれているので、より多くの種類の餌を与えることはかなり効果があると思われます。反面、ペレット主食の場合、本来自然界には存在しない食品ですから、消化器官や精神面に与える悪影響は懸念されるところです。オカメなどは、好き嫌いがないにしても明らかに嗜好性は持っていて、食べ物を選らんで食べています。これは「食」を楽しんでいることの現われで、精神面にも良い効果を与えています。栄養面で安定しているペレットは、良い餌ではありますが、それだけではオカメを十分に満足させることはできないでしょう。 (7)まとめ 一般的な傾向として、とにかく問題がおきそうな交配は止めておこうというだけの消極的な交配が多く感じられます。常に理想的な交配をすることは簡単なことではありませんが、それを目指していくことはとても大切なことです。私自身、まだまだ未熟でこれからたくさんの知識や経験を積まなければなりませんが、ブリーディングを手がける者として、より良い個体の作出に尽力し、何よりもブリーディングをずっと楽しんでいきたいと思っています。 |
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